大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和40年(く)43号 決定

少年 D・G(昭二三・六・一一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は、附添人弁護士田村誠一提出の抗告申立書記載のとおりであつて、その内容はD・Gに対する強姦事件につき昭和四〇年一一月二五日札幌家庭裁判所に於て中等少年院に送致する旨の決定を受けたが、不服であるから、抗告の申立をするというにある。

按ずるに、少年に対する保護処分に対する抗告申立の方式に関しては、少年審判規則第四三条第二項は「抗告申立書には、抗告の趣意を簡潔に明示しなければならない」と明らかに規定しているのであつて、これに違背するにおいては不適法とされねばならないのであるが、右にいう抗告の趣意とは、少年法第三二条が保護処分決定に対する抗告の理由となし得るものとして限定的に規定する(イ)決定に影響を及ぼす法令の違反、(ロ)重大なる事実の誤認、又は(ハ)処分の著しい不当のうちのいずれを抗告の理由として主張する趣旨であるかを看取し得るか、又は少くともこれを容易に推知し得る程度の具体的な事実の主張や意見の開陳を意味するものと解すべく、従つて、本件における如く、ただ漫然と抽象的に中等少年院に送致した原決定に対し不服であるから抗告を申立てるというだけでは、抗告の趣意の明示を欠き、いまだ以つて抗告申立の方式に関する前記規定の定める要件を具備するものとなし難いので、本件抗告申立は不適法たるを免れない。尤も、本件については附添人田村誠一から抗告理由書と題する昭和四一年一月一〇日付書面が当裁判所宛に提出され、同日受理されているが、右は原裁判所が原決定をした昭和四〇年一一月二五日から起算して、少年法第三二条所定の抗告提起期間である二週間を徒過後に提出されたものであることが明白であるから、これをもつて前記抗告申立書の不適法たることを補正し得るものとは解されない。尚附添人田村誠一は右抗告理由書の提出が遅くなつた事由として、家庭裁判所においては抗告期間中はもとより、附添人選任届を提出する頃にも、少年院送致決定書ができておらず、附添人は高等裁判所において漸くその決定書を見るに至つたものである旨主張するけれども、本件第二回審判調書の記載(記録七一九丁)、少年院送致決定書の欄外告知印(同七二〇丁)を検すれば、本件決定自体は少年審判規則第三条に則り、審判期日において少年及び保護者の面前において、適式に告知されたものであることを明認することができるから、抗告を申立てるに際して、少年審判規則第四三条第二項の要請に則り、抗告申立書自体に抗告の趣意を簡潔に明示することすらできないものと解することはできないから、結局本件抗告は前説示の通り、少年審判規則第四三条第二項に違背し、棄却を免れない。(昭和三四年八月三日最高裁判所第二小法廷決定参照)

よつて、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢部孝 裁判官 中村義正 裁判官 半谷恭一)

参考二

附添人弁護士の抗告申立書(昭和四〇年一一月二九日付)

右の者に対する強姦事件について昭和四〇年一一月五日札幌家庭裁判所において少年院に送致する旨の決定を受けましたが不服でありますので抗告の申立を致します。

参考三 附添人弁護士の抗告理由書(昭和四一年一月一〇日付)

抗告の趣旨

原決定を取消す

少年を保護観察に付す

との御裁判を求める。

抗告の理由

原決定が少年を中等少年院に送致する決定をしたのはその処分著しく不当である、以下その点を明かにする。

一、少年は他の共犯者の如く刑事非行歴はなく初めて本件の如き犯罪を犯したものであること然も本件犯行は偶発的なものであり諸般の状況からして酌量の余地あるものと考える。即ち少年は当日A方には行く意思は全然なかつたのであるが、偶々Aから誕生祝をやるから来ないかと電話で誘われ同人宅に赴いたところ他のものが肉体関係をしている状況を目撃し俄に劣情をもよおし本件に及んだもので、この様な状態をまの当り目撃した場合春秋に富む行動的な少年で果して自制し得るものが何人居るだろうか疑問なきを得ない、附添人は少年の場合においては犯罪の成立自体にすら疑問をもつているが、その事は特に争おうとはしないが、右様な状態の下において行われた行為を犯情悪質と見た原決定には賛成しがたいものがある、のみならず本件記録を見ると被害者である○沢、○上の両女は全然見知らぬB、Cの両者から誘わるる儘之を拒否することなく同人等と散歩を共にしあげくの果A方にあがり然も本件現場から逃げる時間的余裕を充分もちあわせていたにも拘らず共犯者等の甘言に乗せられるに至つたことは重大な責任があると思われるのであり、かれこれ考えて見ると少年の行為には大いに責めらるべき点はあるが、酌量の余地あり悪質とは云えない。

二、少年の高校入学後の行為には批難すべき点なしとしないが、これは当時一八歳の思慮分別の足りなさからその様な結果に陥つたものでこれを是正することは必ずしも困難なものでなく少年もこれを契機に心気一転過去の汚名を返上し更生しようという強い意欲に燃えて居り然も母親も少年が勾留されてから自己の監督のルーズであつた事を充分反省し従来の態度を改め少年を監督の充分出来る知人に預けしつかりした手職を与え社会復帰を図ろうという努力の意図が認められ必ずや少年自身の反省改悟と相俟つて更生出来るものと思う。少年は小中学時代には優秀な成績で先生からも将来を嘱望されていた位で改善の余地は充分あり、然も前述の如く刑事事件を犯したのは今日初めてであり俄に少年院に送ることはいささか酷に失するきらいがある。保護観察になつたF、I、H、G等と特に区別すべき理由を発見出来ない。

以上諸般の事情を考慮すると原決定が少年を少年院に送致する決定をしたことはその処分著しく重きに過ぎるので之が取消の上保護観察に付するを相当と思考する。

尚家庭裁判所においては抗告期間中はもとより附添人選任届を提出する頃にも少年院送致決定書が出来て居らず附添人は高等裁判所において漸くその決定書を拝見するに至つたものでその為抗告理由書が遅くなつた事を申添える。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例